故人様をお送りした後に信頼できるパートナーを目指して

生前にできる死後の手続き

2021/09/02


人生の仕上げを子供に頼らず「夫婦で」考えるにしても、必ずどちらかが先に旅立つ。その際に残された者が直面するのが「死後の手続き」だ。単身者の場合、離れて暮らす子供や親戚が手続きにあたることになるだろう。

 チェック事項や必要書類は多岐にわたるため、膨大な手間がかかるが、その“準備”に活用したい資料がある。

「区役所に〈おくやみ手続き ご案内〉という小冊子があったので、それを自分の終活に使っています」

 そう話すのは神戸市在住の元会社役員(75歳)だ。兄が亡くなった時、区役所へ死亡届を出しに行ったところ、渡されたものだという。

「近親者が亡くなった後の役所での手続きについて詳しく説明してあるんです。印鑑登録証の返還や世帯主の変更といった手続きに漏れがないようにするためのチェックリストがあり、必要な書類と提出する窓口、期限などが整理されています」

 この男性が手にする小冊子を見ると、年金事務所や税務署で必要な手続きも一覧になっている。

「自分が死んだ後に、残された家族の手をこんなに煩わせないといけないのかと心配になりました。世帯主変更は市民課、国民健康保険の資格喪失届と保険証の返還は保険年金医療課といった具合に、最低でも9課で20枚以上の書類などが必要になる。家族に少しでも迷惑をかけないため、死んだら返さなくてはならない書類だけでも揃えておこうと考えたのですが、実際に整理してみると家族に保管場所を伝えていないものがたくさんあった。

区役所以外での手続きとして挙げられていたクレジットカードの解約、預金口座の凍結解除、生命保険金の請求、不動産登記関係などのための必要書類も同様だったので、きちんと整理しておかなくてはならないことが分かりました」

 こうした小冊子は「死後の手続き」の煩雑さを軽減するための自治体の取り組みのなかで生まれた。

神戸市では、各区役所・支所に「おくやみコーナー」を設置している。死後の手続きについて説明するとともに、職員が申請書の作成などを手伝う窓口で、前述の小冊子はここで配布されている。

 役所に「おくやみコーナー」を設ける自治体の先駆けとなったのは、大分県別府市だ。2016年5月にコーナーを新設した同市の総務課管財係の担当者はこう説明する。

「亡くなった方の属性などにもよりますが、市役所での手続きは最大で13課69業務に及び、1日で終わらないケースもあった。

 そこで死亡手続きに特化した窓口を設け、そこで亡くなった方の住所、氏名、葬儀日などの必要項目を書類に記入していただくようにしました。その内容を職員がパソコンに入力すれば各課の必要書類に反映され、ひとつひとつ同じことを記入しなくてもいいような仕組みを構築した。各課を回っていただく必要はあるが、『おくやみコーナー』で20分ほど、各窓口を回ってもトータル1時間ぐらいで手続きが完結するようになりました」

 同市の取り組みには、全国の自治体から視察が相次ぎ、“別府方式”として全国の約30の自治体で導入されている。

 それを政令指定都市で初めて導入したのが、前述の小冊子を作成した神戸市だった。同市行財政局区役所課はこう説明する。

「2018年に別府市へ視察に行き、一部の区役所での先行導入を経て、20年5月に全区役所と支所に『おくやみコーナー』を設けました。そこで配布する小冊子については、積極的な広報をしているわけではありませんが、死亡届が提出された時に窓口でお渡ししており、市のホームページからダウンロードすることも可能です」

 東京23区で唯一、「おくやみコーナー」を設けている大田区も、〈ご遺族の方へ ~おくやみ手続きガイド~〉と題した小冊子を用意しており、やはりホームページから入手できる。

「『おくやみコーナー』で手続きがすべて完結するワンストップ窓口を開設している自治体もありますが、大田区の場合は人口が多く(約73万人)、なかなか難しいところもあったので、充実した小冊子を製作し、それをご覧いただくだけでも手続きが完結できるようにしました。ご要望があれば存命中に活用したいという方にもお渡ししています」(区民部戸籍住民課)

 自分がいま住んでいる自治体が、「おくやみコーナー」を設置しているとは限らない。だからこそ、無料で入手できるこうした小冊子を利用して、必要書類などを生前に整理しておく方法も検討に値すると言えるだろう。社会福祉士の吉川美津子氏はこう話す。

「生まれる時は出生届1枚で済むのが、亡くなる時はたくさんの書類の届け出が必要となります。自分に該当するものを把握しておくだけでも、終活のきっかけになります。役所の小冊子のほか、法律の専門家や、葬儀社等がそうした情報を整理していることもあります。それらの資料を活用し、できることから終活を進めていけばいいと思います」

 元気なうちに“やれることは自分でやる”という姿勢が子供に頼らず、迷惑も掛けない最期につながる。

*週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号

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