年金の繰り下げ受給は何歳から受け取るのがベスト?
監修者
CFP(R)、社会保険労務士、経済エッセイスト 井戸美枝
ライター
ハルメクweb 公開日:2022/02/04
老後のお金の不安を払拭したい!そんな方のために、2022年「年金大改正」のポイントを解説する特集です。今回は、年金をもらう年齢を遅らせるほど、受給額が増える「繰り下げ受給」について。果たして何歳から受け取り始めるのがいいのでしょうか?
目次
- 年金大改正ポイント(1)年金の繰り下げが75歳まで可能に
- 繰り下げ受給するとどうなる?
- じゃあ、 いつから受け取り始めたらいいの?
- 考えるべきは生活費と長生きリスク
- 夫婦それぞれの年金受給年齢を考えるポイント
- 繰り上げ受給の減額緩和とは?
- まとまったお金が必要になったら「一括受け取り」という手も!
年金大改正ポイント(1)年金の繰り下げが75歳まで可能に
2022年、例年にない大きな改正が行われる年金制度。その最大ともいえる変更点は年金(国民年金・厚生年金とも)の「繰り下げ受給開始年齢」の延長です。
2022年4月から、それまで70歳までだった老齢基礎年金(国民年金)の「繰り下げ受給開始年齢」が、さらに5年延長されて75歳までになります。
繰り下げ受給するとどうなる?
年金の受け取り開始時期を繰り下げれば、その分、月々の年金額に上乗せする仕組みになっています。
具体的には、
- 1か月繰り下げるごとに、年金の月額が0.7%アップします。このルール自体に変更はありませんが、これまで最大でも5年までだった繰り下げ期間が最大10年まで延長されることになりました。
つまり、標準的な受給開始年齢65歳から、
- 5年遅らせると(70歳からスタート) 0.7% × 60か月(5年)=42%
- 10年遅らせると(75歳からスタート) 0.7% × 120か月(10年)=84%
2021年度の年金額(満額)78万900円(年額)にあてはめると
- 5年遅らせれば 年 110万8878円
- 10年遅らせれば 年143万6856円
受け取れる、という計算になります。
じゃあ、 いつから受け取り始めたらいいの?
※満額の国民年金78万900円をもとに計算
では、いつからもらい始めるのがいいのでしょう。どうやって考えたらいいのか、社会保険労務士であり、ファイナンシャルプランナーの井戸美枝(いど・みえ)さんに聞きました。
上のグラフは、受給開始年齢ごとの損益分岐点を示しています。
A:通常パターン 65歳受給開始
B:繰り下げパターン70歳受給開始
C:繰り下げパターン75歳受給開始
損得だけでこのグラフを見ると、
Bの70歳でスタートした人は、年額110万8878円をもらい、81歳に、Aの65歳受給開始の人の総受給額を追い越します。
Cの75歳でスタートした人は、年額143万6856円をもらい、86歳で、Aの65歳受給開始の人の総受給額を追い越し、91歳でBの70歳で開始した人を追い越します。
考えるべきは生活費と長生きリスク
井戸さんによれば、年金を含めた老後の家計計画は夫婦単位で考えることが大切だとか。
「おひとり様の場合は違いますが、夫婦で暮らしている場合は、何歳で退職するか、その時どこで・どんな暮らしをして、生活費がいくら必要かを世帯単位で総合的に考える必要があります」
まず夫も妻も、平均寿命まで生きると仮定します(女性87歳、男性81歳とします)。87歳で亡くなるまでに、累計でいくらもらえるのでしょう。
A:65歳でもらい始めたら1796万700円
B:70歳でもらい始めたら1995万9840円
C:75歳でもらい始めたら1867万9128円
「何歳まで生きるかなんて、自分でもわからないものですが、平均寿命まで生きると考えてみましょう。女性の場合は、70歳で受給を開始すると総受給額が多くなります。70歳まで年金を受給せずに生活できるか、考える必要はありますが、その分の生活費を夫の年金でまかなう方法を考えた方がいいでしょう」と井戸さんは指摘します。
「もちろん年金は人によってさまざまですが、多くの場合、夫が亡くなると世帯の年金収入は半減すると考えた方がいいでしょう。しかし、夫の死後も生活は続きますから、妻の年金をは少しでも増やしておくのがポイントです。加えて、妻も仕事を始める・続けるなどして厚生年金を納め、少しでも年金額を増やす・収入を継続させる、などの工夫ができるとさらにいいでしょう」
夫婦それぞれの年金受給年齢を考えるポイント
井戸さんによれば、夫婦それぞれの「もらい始め年齢」を考えるポイントは次の通り。
1.夫の年金と収入で生活費をまかなうと想定して、夫の年金の開始タイミングを考える
2.妻の年金開始を遅らせて、受給額を増やし老後に備える
「個人的には、70歳くらいまで遅らせてもらい始めるのが一番現実的かな、と思います。平均寿命で考えると、夫が亡くなるのは81歳。仮に妻が3歳年下だとすると、そのとき妻は78歳。その時点から世帯の年金収入が半減する、と考えると、妻は75歳まで無年金でがんばるより、70歳くらいからもらい始めておけば、多少なりとも貯蓄に回せるでしょう。
70歳から78歳までに受け取る妻の累計年金額は997万9902円。全額貯蓄できなくても、コツコツと備えればまとまった金額になって、安心なのでは?と思います」(井戸さん)
繰り上げ受給の減額緩和とは?
通常(65歳)よりも早くもらい始めたい人は、5年まで前倒し(60歳まで繰り上げ)が可能です。今回の改正では、従来、月あたりマイナス0.5%だった減額率が、マイナス0.4%に緩和されることになりました。
「年金が減ってしまう繰り上げは、できれば避けたいもの。とはいえ、老後資金が厳しい人は、早めにもらい始めて暮らしを安定させるのに役立ちます。年金は一度もらい始めてしまったら、止めることはできません。メリットとデメリットをしっかり理解して、自分にとってベストなタイミングを考えましょう」(井戸さん)
受け取るお金の累計が、何歳で追い越すか」という視点で見れば、60歳からもらい始めた人は、80歳でようやく、65歳から始めた人に追い越されることになります(上記の表参照)。
「繰り上げに関して忘れてならないことがあります。それは、繰り上げについてのみ、厚生年金も同時に繰り上げねばならない、ということです。またiDeCoにも加入できなくなります。」と井戸さん。
厚生年金も国民年金同様、繰り上げて受給すると月あたり0.4%減額されることになります。厚生年金がもらえる予定の人は、その点も考慮に入れる必要があります。
まとまったお金が必要になったら「一括受け取り」という手も!
まだまだ元気だし少しでも年金を増やしたいから、受給せずに少しでも繰り下げよう。そう考えて、待機していたとします。ところが「大病をしてお金がかかることになった」「勤務先の倒産やリストラで、仕事がなくなった」。そんなトラブルに見舞われたら、どうしましょう?
「人生に予想外の展開はつきもの。例えば、70歳まで待機するつもりだったのに、68歳でお金が必要な事態になったのなら、68歳から受給を開始すればいいんです」(井戸さん)
この場合、もらい方には2つのパターンがあるといいます。
1.待機した分増額してもらい始める
(65歳から)3年待機したとすると、36か月。0.7%×36か月=25.2%。満額の国民年金で計算すると、65歳で受給開始した場合の78万900円の、25.2%増に。年間97万7686円を生涯受け取ることになります。
2.待機した分を一括でもらい、通常の額をもらい始める
待機しなかったものとして、毎年78万900円を生涯もらいます。その代わり、待機していた期間の3年間分(78万900円×3年=234万2700円)を一括で受け取ります。
「病気などでまとまったと金が必要な場合は、2の受け取り方が助かるでしょうね」
年金は受け取り開始時期を選ぶことで、受け取れる金額が大きく変わることがわかりました。
まだ先、と思わず、自分のライフプランを考えながら、シミュレーションしてみるのがいいようです。
「年金のもらい始めをいつにするか、将来が予測しきれずに迷う方もいらっしゃるでしょう。もし、65歳から受給しないと厳しい、という状況でないのなら、とりあえず受給せずに待ってみる、というのも一案です。スタートしてしまったら、受取金額も変更できません。いつでもスタートすることはできるのだから、とりあえず待機しておく。状況を見て判断する、でもいいと思います」(井戸さん)
ご自身の年金シミュレーションは、「ねんきんネット」で調べることができます。
誕生月に届く「ねんきん定期便」に記載されている国民年金・厚生年金の受給見込み額をもとに試算してみましょう。
次回は「65歳以降も働くこと」と「厚生年金で年金を増やす方法」について、考えます。
※2022年6月から年金支給額が変わります
この記事での年金の試算額は、2021年度価格での計算となっています。記事内記載額よりも2022年6月から受け取る年金(4・5月分)の年金支給額は変わります(2022年1月21日に厚生労働省より発表)。
65歳の人が新たに受け取り始める例(月額)は
- 国民年金(1人分)は、記事内記載より259円減って6万4816円
- 厚生年金は、今より903円減って21万9593円になります。
監修者
CFP(R)、社会保険労務士、経済エッセイスト 井戸美枝
ライター
ハルメクweb 公開日:2022/02/04