親亡きあとの障害者の未来
厚労省は2024年5月31日、在宅障害者・児の状況を調べる「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」の結果を公表しました。平成28年以来の調査で、14,079人から有効回答を得て、同調査の結果を反映させた障害者の総数は、推計1164.6 万人。日本の総人口の約9.3%に相当します。
在宅の身体障害者手帳所持者は推計で415.9万人となり、前回調査から減少している一方で、療育手帳所持者は推計114.0万人、精神障害者保健福祉手帳所持者は同120.3万人となり、いずれも前回からの増加が見られます。身体障害者手帳所持者が減少している理由について、厚労省の担当者は、わが国の人口減の影響が考えられると述べました。
今回の調査結果を反映させると、わが国の障害者の総数は1164.6 万人、障害別に見ると、身体障害者が423.0万人、知的障害者が126.8万人、精神障害者が614.8万人。
所在の内訳としては、在宅が95.8%、施設入所が4.2%、精神障害者のうち「入院精神障害者」は4.7%(28.8万人)。
年齢の内訳は、65歳未満53%、65歳以上47%、身体障害者(児)のうち73%が65歳以上となっています。
このデータから見えることは、障害者の子供を持った親が、自分が亡くなった後の子供の事が心配だということです。
自分が死んだ後、障害のある子供が人として守られていくのか、今まで通りに暮らしていけるのか、お金の管理は誰がするのか、そういった不安や悩みを抱えています。
① 生活そのものが成り立つのかという不安
•食事・入浴・服薬・金銭管理ができない
•一人暮らしが不可能
•環境が変わるとパニックや体調悪化を起こす
親は「自分がいなくなった瞬間から生活が破綻するのではないか」と感じています。
② 「世話をする人」がいなくなる不安
•配偶者が先に亡くなる、または高齢
•兄弟姉妹に負担をかけられない、頼めない
•親戚とは疎遠
「きょうだいがいるが、人生を縛る存在にはしたくない」という葛藤が一番多い悩みです。
③ 経済面の不安
•自分の年金や収入が途切れたらどうなるか
•障害年金・生活保護で本当に足りるのか
•お金を渡しても本人が管理できない
•悪意のある人に騙されないか
「お金は残せても、使い方を守れない」という不安が想像以上に強く大きいです。
④ 住む場所の不安
•今の家に住み続けられるのか
•グループホームに入れるのか
•施設が見つからないのではないか
•施設の質が心配
「急に施設に入れられて、環境が激変し本人が混乱すること」が親にとって大きな不安です。
⑤ 人間として尊重されるかという不安
•乱暴に扱われないか
•話を聞いてもらえるのか
•存在を軽く見られないか
•「かわいそうな人」として処理されないか
非常に切実ですが、言葉にされにくい不安です。親は「この子の代わりに怒ってくれる人、守ってくれる人がいなくなる」ことを恐れています。
●親が特に恐れていること、心の奥で思っていることは
•親が急死 → 準備不足
•きょうだいが困惑
•行政手続きが進まない
•とりあえず施設 → 本人が混乱・拒否
•結果的に孤立
「自分の死が、子どもの人生を壊す引き金になるのでは」という恐怖です。
●親が本当は望んでいることは、必ずしも「完璧な将来」ではなく、多くの場合、
•生きていける
•安心して眠れる
•怒鳴られない
•見捨てられない
•誰かが気にかけてくれる
「普通でなくていい。孤独でなければいい」これが親の本音です。
●実は終活は障害のある子を持つ親にとって、すべて「この子をどう守るか」という事
•終活
•葬儀
•遺言
•エンディングノート
そして、障害者の子供を持つ親の終活は早すぎることはありません。
親はよくこう言います。「まだ元気だから…」しかし実際には、元気なうちでないと準備できない分野です。
●親亡きあとの対策
① 親が生前に準備できること
親亡きあと対策は、必ず次の5分野で考えます。
1. 人(誰が関わるか)
2. 生活(どこでどう暮らすか)
3. お金(どう残し、どう管理されるか)
4. 手続き(誰が判断・契約するか)
5. 想い(本人理解・きょうだい理解)
このどれかが欠けると、親の死後に混乱します。
② 具体的に「親が事前にできる準備」
1. 【人の準備】支援者を“見える化”する
•相談支援専門員をつける(※最重要)
•医師・ケアマネ・施設職員と顔の見える関係を作る
•きょうだい以外の第三者支援を意識的に増やす
2. 【生活の準備】住まいと暮らしを“試す”
•グループホーム・短期入所(ショートステイ)を利用
•施設見学・体験入居を生前から行う
•親と離れて過ごす経験を少しずつ積ませる
よくある誤解
「かわいそうだから親と一緒に」
しかし、親亡きあとに一気に環境が変わる方がはるかに過酷です。
3. 【お金の準備】残すより「守る」
•障害年金・特別障害者手当の確認
•親の死後の収支シミュレーション
•金銭管理方法の検討(後見・信託)
「いくら残すか」より「誰がどう管理するか」がポイント
相続トラブルより“生活破綻”が怖い
4. 【手続きの準備】判断できない場面への備え
•任意後見契約の検討
•親が元気なうちに意向を文書化
•行政窓口・制度の整理メモ作成
5. 【想いの準備】言葉に残す
•「この子のこと」専用ノート作成
•得意・不得意・パニック時の対応
•本人が落ち着く人・場所・習慣
制度より、この情報が現場では一番役立つことも多いです。
③ 公的支援
1. 相談支援体制
•計画相談支援
•地域生活支援拠点
•市区町村障害福祉課
親亡きあとの「司令塔」になる存在
2. 金銭的支援
•障害基礎年金
•特別障害者手当
•生活保護(親死亡後に検討されることも)
3. 住まい・生活支援
•グループホーム
•入所施設
•居宅介護・重度訪問介護
•日中活動(就労継続支援など)
4. 法的支援
•成年後見制度(法定・任意)
•市民後見人制度
④ 私的支援(公的制度の“隙間”を埋める)
1. 福祉型信託・家族信託
•生活費の目的限定管理
•第三者チェックが可能
※ 法律専門職と連携必須
2. NPO・親の会
•同じ立場の親同士の情報
•実体験ベースの助言
3. 民間後見・見守りサービス
•金銭管理
•定期訪問
•緊急連絡体制
いわゆる「終活」は葬儀の準備のイメージが強く、その大半は“亡くなった後”のことですが、障害者の子供を持つ親の終活は“生きている人の未来”の準備です。
具体的な契約などは信頼できる専門家へお願いしましょう。
一人で全部やらなくていい、元気な今だからこそ、選べる選択肢があります。
“もしもの時”に慌てないための準備を早いうちからしましょう。
●親亡きあとに備えるためのチェックリスト
障害のあるお子さまを持つ親御さんへ
このチェックリストは
「今すぐ全部やらなければならないもの」ではありません。
できている所・これから考えたい所を確認するためのものです。
① 人の支援(誰が関わってくれるか)
□ 相談支援専門員がいる
□ 市区町村の障害福祉課とつながっている
□ 主治医・医療機関が決まっている
□ 緊急時に連絡できる人が複数いる
□ 親以外で、子どものことをよく知る大人がいる
▶ ポイント
親が亡くなった後、最初に動いてくれる「司令塔」が必要です。
相談支援専門員は特に重要です。
② 生活・住まいの準備(どこでどう暮らすか)
□ 今後の住まいの候補を考えている
(例:自宅・グループホーム・施設 など)
□ グループホームや施設を見学したことがある
□ ショートステイ(短期入所)を利用したことがある
□ 親と離れて過ごす経験が少しずつできている
▶ ポイント
突然の環境変化は、本人に大きな負担になります。
「慣れる時間」を親が元気なうちから子供に作ってあげることが大切です。
③ お金の準備(残す・守る・使える)
□ 障害年金を受給している/確認している
□ 特別障害者手当などの制度を確認している
□ 親が亡くなった後の収支を考えたことがある
□ お金の管理を誰がするか考えている
(後見人・信託など)
▶ ポイント
「いくら残すか」より
「誰が、どう管理するか」が重要です。
④ 手続き・判断の準備(代わりに決める人)
□ 成年後見制度について聞いたことがある
□ 任意後見という選択肢を知っている
□ 契約や手続きを本人ができない場合の対応を考えている
□ 親の考え・希望を文書に残し始めている
▶ ポイント
親が元気なうちでないと、決められないことがあります。
⑤ 「この子のこと」を伝える準備
□ 本人の性格・得意不得意を書き出している
□ パニック時の対応方法が整理されている
□ 好きなこと・嫌いなことが分かる
□ 落ち着く場所・人・習慣が分かる
□ 医療・服薬・アレルギー情報がまとまっている
▶ ポイント
この情報は、制度以上に本人を守る力になります。
⑥ きょうだい・家族との共有
□ きょうだいに現状を伝えている
□ すべてを任せるつもりはないと伝えている
□ 家族で将来について話したことがある
▶ ポイント
「頼る」と「背負わせる」は違います。
役割を決めることが大切です。
⑦ 最後に
□ 「まだ元気だから」と後回しにしていない
□ 一人で抱え込まなくていいと知っている
□ 専門家に相談してもいいと思えている
親御さんへ
完璧でなくて大丈夫です。
一つずつで構いません。
「この子が一人にならない」
そのための準備を、できるところから始めましょう。
子供の未来のための準備です。
相談先の一例
•市区町村 障害福祉課
•相談支援専門員
•社会福祉協議会
•信頼できる専門家(司法書士・社会福祉士など)
以上